洋盃というよりはコップ
何気なく使っている言葉が、ふと分からなくなることがあります。易しい文字が書けなくなったり、意味が分からなくなったり。
小難しい言葉でいえば「ゲシュタルト崩壊」というらしく、例えば同じ漢字を見続けると意味や読みが分からなくなってしまう状態が正にそれです。一時的に知覚の麻痺が起き、複数で構成されていた部位が別れて見えてしまうことで元の漢字に見えないのだそうです。
東屋のコップを手にしたときの私がまさにそれでした。改めて考えると「コップ」とは何を指す言葉なのでしょうか?
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辞書を引くと“【洋盃・骨杯】ガラス製の飲み物用の容器。カップ。”と書かれています。
「洋」は西洋を指す言葉だとして、「盃」は酒の器を連想させます。どうでしょう。なんだかワインやシャンパンの「グラス」を指しているのように思えてきて、水やジュースにも使いたいコップには不釣り合いな気がします。
「骨」という字もなかなか物騒なので、文字を入れ替えて「洋杯」はどうでしょうか?盃を杯に変えてもやはり乾杯のようにお酒の印象は残りますし、あるいは優勝杯のような取手付きのカップが連想されるかもしれません。
ガラス製の容器というのも何だか不明瞭な説明です。ガラス製であれば「グラス」の方が適当に思えますので「コップ=グラス」という等式が成り立つかは微妙なところです。
それでは似た単語の「カップ」との関係はどうでしょうか?コップの語源を調べてみると、オランダ語「kop」もしくはポルトガル語「copo」の借用語となっています。それらの単語は英語の「cup」と同義なので、取手付きのカップという意味では「コップ=カップ」ということになります。
ところが「コップ」と「カップ」が日本語的に正確に同義かというと違うでしょう。カップは「コーヒーカップ」や「ティーカップ」のように取手付きの陶磁器を連想させます。素材が陶磁器であるため、辞書で示すガラス製の容器ではなくなってしまうのです。分かったような、分からないような。。。
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やれコップだカップだ、グラスだガラスだなどと、素材や用途にまで風呂敷を広げてしまうといよいよ収拾がつかなくなってしまいます。言葉の探究もここまで。
おそらくですが、言葉として輸入されたあと、日本独自の使われ方をして意味合いが変わっていったのだと思われます。コップはコップ、もはや日本語なのです。
広義で「飲み物の器」を指す、大まかな呼び方。このくらいざっくりとした括りでコップと言うことがしばしばあります。一方で、ガラス製の取手なしの容器こそがコップであるという人もいるかもしれません。モノを正確に呼称したい人にとっては曖昧な言葉かもしれませんが、それほどコップという単語は知っているようで正確には知らない存在なのです。
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改めて東屋のコップを見てみましょう。じっくりと眺めると、そのコップらしいこと!これぞコップという形を見事に具現化しています。もし足が付いていたり薄ければグラスと呼びたくなりますし、素材が陶磁器であれば、今度は湯呑みと呼びたくなります。コップとしか呼びようのない何とも絶妙な塩梅のコップです。
宙吹きという職人技で作られたコップ、毎日使いたくなる逸品です。
コップ、コップ、コップ・・・・
●コップ | 東屋 ¥3,850-
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